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拍手下さった方、ありがとうございますv



↓もう少しの間、ジャックを苛めそうです……

 自分の部屋で寝ていたジャックは、体に吹きかかる風の気配に目を覚ました。
 夜は冷え込む事もあるので、窓は閉めて寝た筈だったが……、サイドテーブルのライトを点けると、やはり閉めた筈の窓は開いていた。
「…スネーク…?」
 スネークは自分の寝室で眠っている……。それはスネークがここに来た時から、暗黙のうちに決まった事だった。日中はほとんど一緒にいる二人だったが、夜は各自の部屋にいる事が多く、…スネークは一度もジャックのベッドに眠った事は無い。これはスネークがジャックの足を気遣ってと言う事もあるが、彼にもこだわりがあるらしく、ジャックの望まない事はしないつもりらしかった。スネークがこの島に来て3カ月以上が経っているが、彼はジャックを抱き締めたりキスする事はあっても、無理に関係を求めてはこなかった。なし崩しのように関係を持ってしまったら、……ジャックにとってはその方が楽なように思えたが、スネークはジャックが無意識に見せるような誘いに乗ってはこなかった。ジャックは、人との距離を測る事が出来ない……。それはスネークにも言える事かも知れなかったが、彼の方がまだ適応力があった。ジャックにとって、他人は自分を害する物でしか無かった……。過去のどこを切り取っても、彼が人から受けたのは虐待としか言いようのない事ばかりだった。リベリア時代は勿論、合衆国に引き取られてからも、湾岸戦争などの帰還兵にある鬱や神経障害の治療方法を模索する医師達の間を盥回しにされ、挙句の果てには実験場のような戦場に放り込まれたのだ……。ジャックは身を守る術として、殺人の方法を覚えた…、同じように、人を懐柔し油断を誘う為にセックスも覚えた……。彼にとって他人との交わりは、殺し合いかセックスしか無かったのだ……。

 吹き込む風の冷たさに、ジャックは起き上がって窓を閉めに行った。
 昼の熱さが嘘のように冷たい風が、ジャックの髪を弄る。
「………」
 暗い森の影の中に、ジャックは何か光る物を見たような気がした。
 ジャックは窓を閉めようとした手を止めた。背中の毛が逆立つような感覚に、ジャックは窓枠に手をかけて乗り出した。この島には、自分とスネークしかいない……。核廃棄施設と言う名目を持ったこの島に、他に来る者は無い筈だ……。
 風の音の中に、何か感じ取る事が出来るか……、ジャックは耳を欹てて外の闇を見詰めた。
 この森に、夜行性の鳥はいない。島に来る鳥は、カモメやウミネコのような物がほとんどで、ジャックは他の鳥を見た事が無い……。動物のすべてを把握してはいないかもしれないが、毎日島の中を歩き回るスネークから、危険な動物についても聞いた事は無い……。
 何よりも、ジャックはこの嫌な風の匂いを知っていた……。
 血だ。
 冷たい風は血の匂いを微かに運んでいた。
 足は一人で歩くくらいは支障なく出来るようになっていたが、以前のように動けるかと言えば疑問が残る。ジャックは寝室に銃を持ちこまなかった事を後悔した。今までが、本当に安穏とした日々だった為に、必ず手元に銃を置く習慣を無くしていた…。
 スネークの存在が、ジャックをどこかで安心させていたのだ……。スネークに頼るつもりは無いと言いながら、ジャックは彼の存在を無意識のうちに頼っていた……。
 ……自分の身は、自分で守る以外は無いのに………。
 死んでも構わないと、自暴自棄な思いと相反して、ジャックの本能は生きる事に貪欲だった。すべての幸せ、子供が手にして然るべき幸せをすべて奪われて、虐待に次ぐ虐待に堪えて来たのも、死にたくなかったからだ。あんな所で死んでしまったら、生まれて来た意味が無くなってしまう。今は思い出せない血縁者たちが、自分をこの世に生んだのは、決してあんな地獄に落とす為では無かった筈だ……。
 ジャックは常に夢想していた。いつか、…いつか、自分を心から愛し受け入れてくれる人が自分の前に現れる筈だと……。それはソリダスだと思っていたが、少年のジャックはただの駒として使われただけだった。子を儲ける事が出来ないと言ったソリダスが、もしかしたら父親のように自分を守り愛してくれるのではないか……、そんな望みを持った日々もあった。しかし、ジャックの望みは叶わなかった。ソリダスはジャックを使って他の子供達の残虐性を引き出したかっただけなのだ。少年兵の中で飛びぬけて能力の高かったジャックを特別扱いする事で、妬みや嫉みを生み出し、本来は大人たちに向かう不満の矛先もジャック一人に背負わせただけだった。

 タン、と乾いた音が、ジャック耳のすぐそばで起こった。
 反射的に身を潜めて、ジャックが窓枠を見上げると……、月の光に冷たく光るナイフが、窓枠に突き刺さっていた。
 息を殺し、窓の外の気配に耳を澄ませるが、もう、外には何の気配も感じられなかった……。先ほどまで、ジャックの首筋をちりちりと焼くようにあった殺気も消え、森はただ風に揺れているだけだった。
 だが、…これは夢ではない……。
 ジャックは立ち上がってナイフを引き抜いた。細い投げナイフ。銀色の柳の葉のように刃は、ジャックの手にしっくりと馴染んだ。
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