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↓スネ雷です。
片翼の天使から続いています。
片翼の天使から続いています。
まるで野生の動物だった。
ジャックは目覚めのまどろみを感じた事が無かった。一気に意識が浮上して、まずは耳が働き始める。寝ている間も、耳は休むことなく働いているのだが、自分に危害を加えない音は自然に反応しないようになっていた。…人に飼われた事の無い猫、それがジャックに一番近い生き物だったかもしれない。
暖炉の薪の音、外を吹く風の音、キーボードを叩く音……、ライターの着火する音に合わせるように、ジャックが伸びをした。アルパカの毛布に包まれていた白い背が、惜しげもなく晒された。
「晩飯を食うか?」
「いや…まだレモンパイがあっただろう…」
毛布を滑り落とした肩が、暖炉の火に照らされて輝いた。張りつめた肌の上には、幾つかのバーコードのタトゥーがあるだけ、あれだけの戦場を渡り歩いた事が信じられないような身体だった。
「甘い物ばかり食べると、逆に低血糖を起こすぞ」
ラップトップを畳んで、スネークが立ち上がった。
床に落ちた毛布を拾い上げ、ジャックの肩を包み込む。
「寒くは無い…」
「目のやり場に困る」
元々、スネークは無類の女好きだ。女性と言う性に惹かれるのだ。幼児期に母親に甘える事も無く育ったためかも知れないが、女性性に惹かれる。男を知らなかったわけでは無いが、好んで同性と関係を持つ事も無かった。そのスネークでさえ、ジャックの姿態には目を奪われた。その身体のすべてを見た後でも、ジャックは男にも女にもどちらにも見えず、またそのどちらでもあった。体を構成するパーツは紛れもなく男なのだが、その肌の肌理の美しさやしなやかさは男の物とは思えなかった。何にもまして、容貌が一目で忘れる事が出来なくなるような美貌なのだ。大人でも無く子供でも無く、男でも無く女でもない…。天使で無いのだとしたら…、悪魔だと言うほかは無い。
「…スネーク…」
ジャックの頬がスネークの肩に預けられた。
「…そろそろ、本題に入ってもいいだろう?何があった?」
ビッグシェル事件から後、ジャックはフォックスハウンドを離れ、ローズと共に暮らしていたはずだった。フィランソロピーの解体の為に、スネークとオタコンが事後処理をしている間、アメリカ国内に幾つかあったセイフハウスやこのアラスカのスネークの家に来た事もあったが…、今回のようにスネークの方からのオファーも無しに訪れる事は無かった。ジャックにとっては、スネークの住む世界は日常とかけ離れた所に置いておく必要のあるものだった。ローズと新たに歩む為に、ジャックはアーセナルギアで無理矢理取り戻された記憶を封印しなければならなかったのだ。ジャック・ザ・リッパー…白い悪魔…、殺戮の限りを尽くしたリベリアでの記憶は、ジャックの新しい生活を阻害するだけだった。
「…何も無い……あんたに会いたくなっただけだ…」
「おいおい……あんな美人と暮らしていて、このむさ苦しい男に会いたくなったって言うのか?」
「…そうだ…会いたかったから…来た」
伏せられていたジャックの瞳が、スネークを見詰めた。
「喧嘩でもしたか?いい仲直りの方法を教えてやろうか?」
ただの喧嘩で、極寒のアラスカに来るとは思えない。スネークにも覚えのある事だ…。夜中に目覚めて、いきなり鬱の発作に見舞われる恋人とベッドを共にし続ける女は、余程自分に惚れているか…、その女も同じように鬱の発作を起こすかなのだ。スネークも酷い層鬱状態を繰り返す。こんな辺鄙な土地に暮らすのも、もしも自殺を企てた時に周りに迷惑のかからないようにだと言ってもいい。たくさんのウルフドッグを飼うのも、自分以外の命の為に、明日の日の目を見なければならないと思えるからだ。……体の傷は、ナノマシンが修復する事も出来る、外部からの治療も効果はあるだろう。…だが、心の傷は、どうしても癒されないものもあるのだ。
「…まずは…花束だ。バラは豪華だが、バラでは芸が無い。小さなブーケでもいいな。ブルーの花を入れるのがいいんだ、気持ちが落ち着く」
「…スネーク…」
柔らかい毛布でジャックを包み、スネークが抱き上げてソファに運んだ。
「その花束をローズに渡して…言うんだ、君がいなければ生きてはいられないって……。これは誰が言っても同じ効果があるとは言えないな。…この…」
ジャックを膝に抱いたまま、ズネークの手が滑らかな頬を撫でた。
「この天使のような顔が言うから意味があるんだ…。瞳から目を逸らさずに……」
「あんたが…必要だ……。俺を一人にしないでくれ……」
「…ジャック…」
ジャックの淡い色の瞳が揺らいだ。溢れる涙を止める事も出来ずに……、それほどにジャックとローズの間には深い溝が出来てしまっているのか……。
スネークの唇が、ジャックの頬を伝う涙を拭った。
「今だけ…今だけでいい…」
震える喉にも、スネークが唇がキスを繰り返す。
今だけでいいと言いながら縋る腕は、スネーク自身の腕でもあった。…縋る相手がいるならばだが……、スネークも何もかもを捨て去って、誰かの腕に安らぎを求めたいと思った事が無かったわけでは無い。…だが、それは許される事では無かった。ソリッド、リキッド、ソリダス…ビッグボスへと連なる二重の螺旋が、スネークを開放する事は無かった。いずれ、この世から跡形もなく消え去る日まで…、スネークには負わねばならない罪があった。
「…スネーク…」
喘ぐように呼ばれた名前は、…解放を許されない罪の名だった。自分自身で負ったわけでも、望んだわけでも無かったが…、逃れられない螺旋の中に、スネークはいた。
鎧戸を下ろしても、吹き荒ぶ吹雪の音は消えない。…幻の悲鳴のように、ここにいる二人を縛り付ける。
「…一人にしないで……」
子供のような泣き声を抱いて、スネークの中にも行き場のない涙が積もって行った。
翌朝、昨夜の吹雪が嘘のように晴れ渡った空の下。
鋼色のスノーモービルが、丘を越えて小さくなるのを、スネークは一人見詰めていた。暖炉の薪も燃え尽きて、冷え冷えとした朝の空気の中で、身支度を整えるジャックの気配は知っていたが、スネークは黙って行かせる事にした。…後に何かを残してはいけない…。スネークは常に自分の痕跡を消しながら生きて来たのだ。
この朝が…、生のジャックの最後となっても…、もしも、スネークがその事を知っていたとしても……、決して引き留める事は無かっただろう。
ジャックは目覚めのまどろみを感じた事が無かった。一気に意識が浮上して、まずは耳が働き始める。寝ている間も、耳は休むことなく働いているのだが、自分に危害を加えない音は自然に反応しないようになっていた。…人に飼われた事の無い猫、それがジャックに一番近い生き物だったかもしれない。
暖炉の薪の音、外を吹く風の音、キーボードを叩く音……、ライターの着火する音に合わせるように、ジャックが伸びをした。アルパカの毛布に包まれていた白い背が、惜しげもなく晒された。
「晩飯を食うか?」
「いや…まだレモンパイがあっただろう…」
毛布を滑り落とした肩が、暖炉の火に照らされて輝いた。張りつめた肌の上には、幾つかのバーコードのタトゥーがあるだけ、あれだけの戦場を渡り歩いた事が信じられないような身体だった。
「甘い物ばかり食べると、逆に低血糖を起こすぞ」
ラップトップを畳んで、スネークが立ち上がった。
床に落ちた毛布を拾い上げ、ジャックの肩を包み込む。
「寒くは無い…」
「目のやり場に困る」
元々、スネークは無類の女好きだ。女性と言う性に惹かれるのだ。幼児期に母親に甘える事も無く育ったためかも知れないが、女性性に惹かれる。男を知らなかったわけでは無いが、好んで同性と関係を持つ事も無かった。そのスネークでさえ、ジャックの姿態には目を奪われた。その身体のすべてを見た後でも、ジャックは男にも女にもどちらにも見えず、またそのどちらでもあった。体を構成するパーツは紛れもなく男なのだが、その肌の肌理の美しさやしなやかさは男の物とは思えなかった。何にもまして、容貌が一目で忘れる事が出来なくなるような美貌なのだ。大人でも無く子供でも無く、男でも無く女でもない…。天使で無いのだとしたら…、悪魔だと言うほかは無い。
「…スネーク…」
ジャックの頬がスネークの肩に預けられた。
「…そろそろ、本題に入ってもいいだろう?何があった?」
ビッグシェル事件から後、ジャックはフォックスハウンドを離れ、ローズと共に暮らしていたはずだった。フィランソロピーの解体の為に、スネークとオタコンが事後処理をしている間、アメリカ国内に幾つかあったセイフハウスやこのアラスカのスネークの家に来た事もあったが…、今回のようにスネークの方からのオファーも無しに訪れる事は無かった。ジャックにとっては、スネークの住む世界は日常とかけ離れた所に置いておく必要のあるものだった。ローズと新たに歩む為に、ジャックはアーセナルギアで無理矢理取り戻された記憶を封印しなければならなかったのだ。ジャック・ザ・リッパー…白い悪魔…、殺戮の限りを尽くしたリベリアでの記憶は、ジャックの新しい生活を阻害するだけだった。
「…何も無い……あんたに会いたくなっただけだ…」
「おいおい……あんな美人と暮らしていて、このむさ苦しい男に会いたくなったって言うのか?」
「…そうだ…会いたかったから…来た」
伏せられていたジャックの瞳が、スネークを見詰めた。
「喧嘩でもしたか?いい仲直りの方法を教えてやろうか?」
ただの喧嘩で、極寒のアラスカに来るとは思えない。スネークにも覚えのある事だ…。夜中に目覚めて、いきなり鬱の発作に見舞われる恋人とベッドを共にし続ける女は、余程自分に惚れているか…、その女も同じように鬱の発作を起こすかなのだ。スネークも酷い層鬱状態を繰り返す。こんな辺鄙な土地に暮らすのも、もしも自殺を企てた時に周りに迷惑のかからないようにだと言ってもいい。たくさんのウルフドッグを飼うのも、自分以外の命の為に、明日の日の目を見なければならないと思えるからだ。……体の傷は、ナノマシンが修復する事も出来る、外部からの治療も効果はあるだろう。…だが、心の傷は、どうしても癒されないものもあるのだ。
「…まずは…花束だ。バラは豪華だが、バラでは芸が無い。小さなブーケでもいいな。ブルーの花を入れるのがいいんだ、気持ちが落ち着く」
「…スネーク…」
柔らかい毛布でジャックを包み、スネークが抱き上げてソファに運んだ。
「その花束をローズに渡して…言うんだ、君がいなければ生きてはいられないって……。これは誰が言っても同じ効果があるとは言えないな。…この…」
ジャックを膝に抱いたまま、ズネークの手が滑らかな頬を撫でた。
「この天使のような顔が言うから意味があるんだ…。瞳から目を逸らさずに……」
「あんたが…必要だ……。俺を一人にしないでくれ……」
「…ジャック…」
ジャックの淡い色の瞳が揺らいだ。溢れる涙を止める事も出来ずに……、それほどにジャックとローズの間には深い溝が出来てしまっているのか……。
スネークの唇が、ジャックの頬を伝う涙を拭った。
「今だけ…今だけでいい…」
震える喉にも、スネークが唇がキスを繰り返す。
今だけでいいと言いながら縋る腕は、スネーク自身の腕でもあった。…縋る相手がいるならばだが……、スネークも何もかもを捨て去って、誰かの腕に安らぎを求めたいと思った事が無かったわけでは無い。…だが、それは許される事では無かった。ソリッド、リキッド、ソリダス…ビッグボスへと連なる二重の螺旋が、スネークを開放する事は無かった。いずれ、この世から跡形もなく消え去る日まで…、スネークには負わねばならない罪があった。
「…スネーク…」
喘ぐように呼ばれた名前は、…解放を許されない罪の名だった。自分自身で負ったわけでも、望んだわけでも無かったが…、逃れられない螺旋の中に、スネークはいた。
鎧戸を下ろしても、吹き荒ぶ吹雪の音は消えない。…幻の悲鳴のように、ここにいる二人を縛り付ける。
「…一人にしないで……」
子供のような泣き声を抱いて、スネークの中にも行き場のない涙が積もって行った。
翌朝、昨夜の吹雪が嘘のように晴れ渡った空の下。
鋼色のスノーモービルが、丘を越えて小さくなるのを、スネークは一人見詰めていた。暖炉の薪も燃え尽きて、冷え冷えとした朝の空気の中で、身支度を整えるジャックの気配は知っていたが、スネークは黙って行かせる事にした。…後に何かを残してはいけない…。スネークは常に自分の痕跡を消しながら生きて来たのだ。
この朝が…、生のジャックの最後となっても…、もしも、スネークがその事を知っていたとしても……、決して引き留める事は無かっただろう。
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