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↓今回はオタコンを食べてません(笑

 フライシュ・ヴルストにゴーダチーズを重ね、パセリとパウダーのパプリカを振りかけてもう一枚フライシュ・ヴルストを重ねる。フライパンの油を温めながら、解き卵にフライシュ・ブラストの重ねた物を潜らせてたっぷりのパン粉を付ける。
 適度に温まった油に衣をつけたフライシュ・ブラストを落とすと、パン粉の周りに小さな気泡が浮かび上がった。4枚のフライシュ・ブラストのチーズ挟みをフライパンに並べ、スネークはフードプロセッサーの中に玉ねぎのピクルスとトマトの缶詰を入れた。
「なんだろう、すごくいい匂いがするね」
 スネークがフードプロセッサーの中のトマトソースを皿に移していると、オタコンがキッチンのドアを開けた。
 今日、オタコンは朝から自分の部屋に篭りきりだった。以前玩具メーカーにパテントを売った商品の評判が良いらしく、新しい動きのプログラムを依頼されていたのだ。たった二人のNPOフィランソロピーにとって、オタコンのこうしたバイトは唯一に近い収入源だった。ナターシャがシャドーモセスの真実で得た著作権料のほとんどを寄付してくれてはいたのだが、そうした資金で調達したセーフハウスやヘリには維持費がかかる。それらはすべてオタコンのバイトが支えているのだ。
「もう直ぐ出来上がる。仕事は済んだのか?」
「うん。今ファイルを送ったところ。たぶん手直しは無いと思うんだ」
 食事も忘れて作業していたオタコンが、眼鏡を外して鼻梁を揉んでいた。
「それ、なんて料理?」
「ブルスト・ダブルデッカー」
「へぇ。なんだか強そうな名前だね」
 古いタイプのロボットアニメの必殺技みたいだとオタコンが笑っていると、こんがりときつね色に焼けた「ブルスト・ダブルデッカー」が手目の前に差し出された。
「今日はチョコバーは食って無いだろうな?」
「何か食べる暇なんて無かったよ」
 衣にさっくりとナイフを入れながら、オタコンが口を尖らせた。彼がこんな表情を見せると、スネークはどこか可笑しくなってしまう。難解な数式を解読する事が出来るこの頭脳が、子供のように無邪気な様子も見せる。そんな二面性をどこか可愛らしく思ってしまうのだ。
「おいしいね」
 唇の端にトマトソースをつけて笑った顔は、おやつを頬張る子供のようだった。そんな事を言ったら、きっとオタコンは臍を曲げてしまうだろうと、スネークは椅子を引く振りをして笑い顔を隠した。
 よほど腹が減っていたのか、あっと言う間に食べ終わったオタコンにスネークがコーヒーを入れた。
「ああ…ありがとう。やっぱり年なのかな……、なんだか肩が酷く痛いよ」
「凝ってるんだろう?眼精疲労だな」
「凝る?凝るってどういう事?肩が何かに熱中するの?」
 不思議そうに尋ねたオタコンに、スネークは思わず吹き出した。
「何だよ。凝り性とか言うだろう?」
「東洋医学の考え方なんだよ」
 スネークが立ち上がってオタコンの後ろに立った。
「血流が妨げられて、乳酸の排出が遅れるんだ。その他に筋肉が炎症を起こして腫れるから神経を圧迫して痛みを覚える」
 言いながらスネークがオタコンの肩を掴んだ。
「…いた…痛いよ、スネーク」
 強い指に押されて、オタコンが眉を顰めた。
「血流が良くなれば痛くなくなる」
「…んっ…待って、スネーク…いたたたっ!」
 肩甲骨の間を両手の親指で押されて、オタコンが椅子の上で飛び上がった。
「スネーク、君、わざと僕を痛がらせて面白がってる?」
「おいおい、俺がそんな友達甲斐の無い奴だと思うのか?」
 スネークにしてみればさほど力を入れたつもりは無い。
「だって、すごく痛いよ」
「だから、痛いのを通り過ぎれば気持ち良くなるんだ」
「……スネーク、…確か、前も同じような事言ったよね?それで、僕は翌日一人でお風呂にも入れなかったんだよね?」
 初めてオタコンを抱いた時に、スネークは確かにそう言った。初めは痛いだけかも知れないが、気持ち良くなると……。
「…その…あれは、個人差もある事だから…。たまたま、お前さんが名器だったって事で…」
「名器って何だよ」
「括約筋の強さは個人差があるって事だ」
 振り返ってスネークを見上げたオタコンの顔が見る間に真っ赤になった。
「ほら…座れ。肩こりとマッサージに関してなら、それほど個人差は無い」
 何か丸めこまれたような気はするが、オタコンはそれ以上スネークの顔を見ていられずに椅子に座った。
「背中にある僧帽筋を揉み解せば、大抵の肩こりは治る」
 さっきまでオタコンがあまり痛がっていたので、力を加減しながらスネークの指は背骨の脇を下りていった。
「痛くないだろう?」
「…うん、今度は大丈夫だよ」
 強めに撫でるように背をさすると、オタコンが長く溜息のような声を漏らした。
「何だか背中がじわじわ温かくなるよ」
「解れて来てるんだな。テーブルに突っ伏してみろ」
「…こう?」
 スネークがテーブルの上の皿を端に寄せると、オタコンが両手を組んでその上に頭を乗せた。
「ああ、力を抜いてろ」
「うん」
 さっきよりは力を込め、スネークがオタコンの背を押すが、もう先ほどのような痛みは無かった。
「…ふふ…」
 背中中を満遍なく摩られ、体の力がすっかり抜けたオタコンが小さく笑った。
「なんだ?何笑ってる?」
「だって…、初めて君を見た時にさ…、あんなに怖いと思ってたのに……。君は親切だよね」
「俺が?」
「うん…君は優しいよ…」
 僅かに隈の浮いた目をオタコンが閉じた。
「俺が優しいのは、恋人に限っての事だけどな」
 うつ伏せた項にかかる髪を掻きあげてキスすると、オタコンは小さく身を捩ってクスクスと笑った。
「僕たちは恋人じゃないよ……。だって…僕は誰も愛せないし……愛されちゃダメなんだ…」
 笑い声に雑じってオタコンの声が小さくなった。
「…オタコン…?」
 スネークが柔らかくその背を抱きしめると、腕の中からは寝息が聞こえて来た。
「冷たい奴だな…」
 オタコンを腕の中に抱きしめて、スネークの声はどこか寂しげだった。
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