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拍手下さった方、ありがとうございますv




↓…書いていて雷電が可哀そうになってきました……
 

 体の汗が引くと、窓から入る風が心地よかった。
 スネークの鼻先を、ジャックの透けるようなブロンドが弄っている。トレーニング中とは明らかに違うジャックの汗の匂いに顔を埋め、スネークは告白の言葉を考えていた。
 順番は逆になってしまったが、自分がどれほどジャックに心を惹かれたか……、出来る事ならば、この先の人生のパートナーとなって欲しい事、それをジャックにどう伝えたらいいのか、スネークは白い項に顔を埋めて考えていた。
「…スネーク……」
「ん…?…重かったか?」
 ジャックの項に埋めた顔を起してスネークが尋ねると、白い背中は黙ったまま腕の中を抜け出した。
「ジャック、話があるんだが……その、…この島に来る前から考えていた事なんだが……」
 日常生活に支障が無くなったら、スネークはこの島からジャックを連れ出すつもりだった。合衆国がジャックに行った事を考えれば、余生の面倒を見させさせるくらいでは飽き足らないのだが、ここにいるのは監視を受けているのも同然の事だった。流石にあからさまにカメラやマイクなどは無かったが、定期便が運ぶ荷物の検閲は行われているだろうし、ネットで発注した物もその定期便を使わなければ手に入れる事も出来ないのだ。広い庭の中で、放し飼いにされているのも同然だった。
「俺と…」
 スネークのアラスカの家も同じような事だったが、ここよりは自由にどこかに行く事も買い物をする事も出来た。フィランソロピーの活動の為に、幾つかのセーフハウスもある、そこを拠点にして、二人の為の住まいを探しているところだった。
「スネーク…明日の定期便で帰ってくれないか」
 床に投げ出されたTシャツで自分の体を拭ったジャックは、感情の無い声で言った。
「ジャック」
「俺は見ての通り大丈夫だ。一人で歩く事も出来る」
「そう言う問題じゃないだろう?俺は」
「あんたは、ソリダスじゃないんだ」
 スネークの言葉を遮って、ジャックはその名前を口にした。…呼ぶだけで、乾き切らない傷口から血が流れ出すような痛みを覚える名前だった。二度と口にしたくないと思った名前だったが、ジャックは表情も変えずにその名を口にした。
「同じ顔をしたあんたを…ソリダスの代わりにしようと思ってた」
 窓から入る午後の陽ざしに、ジャックの表情は大理石で出来ているように固く冷たかった。
「…ジャック…」
「あんたも気付いていると思うが……ビッグシェルでの事は、俺はソリダスとあんたを間違えただけだ…」
 言いながら吐き気を覚えた……。スネークを傷つける言葉を選んでいる自分が、どんなに醜い顔をしているのか、想像するだけでジャックは胃の中が焼けるような痛みを感じた。
「俺はずっと…ソリダスに愛されたかった……」
 …この言葉は……ある意味ジャックの本心だった。リベリアでの生活の中で、ジャックはソリダスだけを心の拠り所に生きていたのだ……。ソリダスの言う事を聞いていれば、…ソリダスの役に立てば、……愛してもらえるのだと思っていた。どんな境遇の中でも、人は他者からの愛情を求める物だ。子供ならばなおさら、自分を庇護してくれる者を求める。それが本当の愛情では無かったとしても、ジャックにはソリダス意外に縋る相手はいなかったのだ。
 今ならば、ジャックにも判る。ソリダスがジャックを孤立させたのも、故意に行っていた事だった。優秀な子供に厚遇を与えているように見せて、他の子供達の不満の捌け口を作るとともに、ジャックのように「優秀な兵士」になれば、自分も厚遇を受けられると思うように……。子供達はソリダスの思惑通りに、ジャックのようになりたいと思うようになった。そして、その為の訓練の厳しさへ募る不満をジャックにぶつける事で発散するようになったのも、ソリダスの計算通りだった。しかも、他の子供達から迫害される事で、ジャックは猶更ソリダスを頼らざるを得なくなるのだ。
 精神的な隷属。これは肉体の隷属以上に難しい事だったが、ソリダスはジャックと言う恰好の手駒を得た事でそれを易々と行う事が出来たのだ。
「俺はソリダスが欲しかったんだ……あんたじゃない…」
 ジャックは潰れそうな胸から、絞り出すように言うのが精一杯だった……。
 本当はこんな風にスネークを傷つけたくないのだ。確かにビッグシェルでは記憶も混濁した状態でスネークを誘ったが、…初めてと思えるような慈しむ手に、ジャックは恋を覚えた。あんなに優しく誰かに抱かれた事は、ジャックには無かったのだ…。
「馬鹿な事を言うな!ソリダスはお前に何をしたんだ!」
 スネークは立ち上がるとジャックに近づいた。
 一歩スネークが踏み出すと、ジャックが一歩下がる。それでも追って来るスネークに、ジャックは到頭窓枠に背を押しつけられた。
「…他人の目にどう映ろうと…俺はソリダスを愛しているんだ…」
 ジャックの顔に、やっと表情らしいものが現れたが……、それは必死に痛みを堪えるような辛そうな顔だった。
「…ジャック…」
「あんたを見てるとソリダスを思いだす……。俺が愛して、俺が殺したソリダスを思い出すのが辛い…」
 ……違う……、ジャックの胸の中では、違うと言う思いが噴き出しそうになっていた。ソリダスとスネークは同じ人間から作られたクローンだったが、全くの別人だった。ビッグシェルでの短い時間だけでなく、この島に来てからのスネークも、ソリダスと重なるところは何もないのだ。

 ……愛してる……。

「あんたを見たくない…」
 ……愛してる……。
「あんたがいると……俺は辛いだけだ…」
 ……愛してる……、スネークを愛している……。ジャックは閉じた目の中が痛んだ。こんなに辛い嘘を吐いたのは、初めてだった……。刃物や銃で人を傷つけた時よりも、スネークに酷い嘘を吐いている方が胸が痛んだ。
「…ジャック……すまん…お前の気持ちを考えていなかったな……」
 スネークも何かで切りつけられたように、痛みを耐えるような顔をしていた……。
 こんな嘘を吐きたくは無かったが……、スネークをここから逃がさなければならない……。
 …ジャックは裸の自分の肩を抱いて、スネークから顔を逸らした。
「……判った……荷物を纏めてくる」
 小さく首を振った後で、スネークもやっとそれだけ言うと、ジャックの部屋を出て行った。

 ……スネーク…愛してる………。
 ドアの閉まる音を聞いて、ジャックが床の上に蹲った。
 諦めなければならないと知って、今までは自分自身で抑え込んでいた感情が、ジャックの中で行き場を失った嵐のように吹き荒れていた。
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