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拍手下さった方、ありがとうございます。


↓…なんとなくさみしい感じです

 どのくらいモニターを眺めていたか判らなかった。目の奥が痛んで、モニターの光さえ刺さるように感じた。
 ……心当たりはすべて調べてみた。メイ・リンのプライベートPCにまで入り込んだところで、…オタコンは少し冷静になる事が出来た。
「…僕は何をしてるんだろう……」
 国防総省にハッキングするよりも、…メイ・リンのメールボックスを開けようとした時の方が罪悪感を覚えた。
「…こんな所にあるはず無いのに……」
 無意識にデスクの引き出しを探って、オタコンは舌打ちした。チョコバーはリビングにおいて来てしまっているのだ。
 眼鏡を外して眉間を揉んでいると、小さなノックの音がした。
「オタコン。調べものが済んだら、気晴らしにローカル新聞でも見てみろよ」
 緊張感の無いスネークの声に、一瞬オタコンはムッとしたがモニターに目を戻して、アラスカのローカル新聞のサイトを片っ端から調べてみた。
「…え……」
 2日ほど前の記事だった。『お手柄の犬達』と言うタイトルの記事は、巨大なハイイログマから主人を守った橇犬の事が書かれていた。橇を襲った熊を、犬達が撃退した様子と、雪の上を踏み荒らした大きな熊の足跡の写真が載っていた。
 …誤解だった。熊に襲撃を受けた人物は匿名になっているが、写真の橇犬はオタコンにも見覚えのある犬だった。…記事を読んでみると、いきなり橇に体当たりして人間を吹っ飛ばしてしまったハイイログマに、橇犬達が一斉に飛びかかり主を守ったとあった。
「…あ……」
 オタコンは立ち上がって、ドアの鍵をガチャガチャと開けた。
「…あの……スネーク……」
 ドアの前にはスネークが立っていた。別段怒っているような様子は見えないが…、オタコンは自分への後ろめたさから俯いてしまった。
「オタコン」
「…うん…ごめんね……僕…」
 結局は自分はスネークを信じられなかった…、オタコンはその事実に打ちのめされていた。
「オタコン」
 また呼ばれ、オタコンが顔を上げると、スネークがオタコンの眼の前に顔を突き出していた。
「え…?」
「恋人が帰って来たら、ハグするもんだろ?所が、俺は300キロの巨体に吹き飛ばされて満身創痍だ。こんな時は…キスで迎えるもんじゃないか?」
 満身創痍と言う割に、スネークは元気そうだった。手当も擦り傷にアクリノールガーゼを当て、湿布を貼ったくらいなのだ。地元の医者はスネークの顔見知りだった為に驚かれもしなかったが、彼でなければ死んでいても不思議では無い状況だった。
「…でも、僕……」
「キスしてくれないのか?」
 片眼を瞑って見せるスネークに、オタコンがおずおずと近付くと……、怪我人とは思えない腕が小さな背中を引き寄せた。
「…ん…」
 スネークのごつごつとした掌が、オタコンの項を引き寄せた。
 掠めるように触れたスネークの唇は、オタコンに柔らかく受け止められると、今度は啄ばむように何度も繰り返しキスをした。
「…ごめん…スネーク……」
 口づけを解かれて、オタコンが言った。スネークは何も嘘を吐いていなかった…。それを信じられなかった事が、オタコンには詫びて済むような事には思えなかったが、謝るより他に方法を知らなかった。
「まぁ、俺の行状も褒められたもんじゃないからな。…でも、傷ついたぞ」
「スネーク……」
「だから、…あの紙袋の中身は一週間は封印だ」
「え?」
 リビングのテーブルの上に乗せられた茶色い紙袋には、オタコンが買って来たチョコレートバーが入っている。
「え…と。それとこれは…違うよね?ねぇ、スネーク、僕が仕事中は糖分取らないとダメだって知ってるよね?」
「知ってる。だから、チョコレートバーはお預け」
「酷いよ。僕が低血糖で倒れていいの?」
 おやつを取り上げられた子供のように言うオタコンに、スネークはくすくすと笑いながら目を細めた。
「倒れたら介抱してやる」
 そう言いながらキッチンに入って行くスネークを追って、オタコンもキッチンに行くと、スネークは冷蔵庫のストックなどを調べていた。
「ねぇ、スネーク……。ごめんってば…」
「俺はあんな甘いもんより、こっちの方が旨いと思うんだがな」
 オタコンが謝っても、スネークはブレッドケースからソーダブレッドを取り出したりして、全く取り合おうとしない。
「噛めば噛むほど味が出る。何よりもミネラルが豊富だ」
「判ってるよ。スネークのソーダブレッドは美味しいよ。でも、澱粉から糖質に変わるのが待てない時だって…」
 脳にとってどれほど糖質が大事かを力説するオタコンの前で、スネークはどこか楽しげにソーダブレッドを切り分けていた。
「…ねぇ、君、何を作ってるの?」
 棚からメープルシロップの大きな瓶を取り出したスネークを見て、オタコンが尋ねた。スネークはただ笑って、ソーダブレッドにコハク色のメープルシロップを掛けて、その上にクラッシュアーモンドを散らした。
「…食べていいの?」
 皿を差し出されて、オタコンが上目使いにスネークを見た。
 スネークが頷くと、オタコンは嬉しそうにソーダブレッドに齧りついた。
「旨いか?」
「うん」
 こんなオタコンの顔を見ると……、スネークは少し恐ろしくなる。…スネークは依存症の傾向がある。それは自分でも知っているのだ。それが煙草であったり、ナノマシンのせいで酔う事はほとんどない酒を止めない理由でもある。戦場でのバンダナもそれに近いものなのだと思う……。自分では気付いていないだけで、他にもあるかも知れない……。
 …その最大の物は…、オタコンの無邪気な笑顔だった。オタコンも30過ぎの男だ。無邪気と言うのは少し違うのかも知れないが、何の警戒もなく自分に向けられる笑顔が、スネークには嬉しいものでありながら、怖いものでもあるのだ。
 今更と言われても、……本当の危機に面した時には、手放してやりたい。自分と一緒にいる事は、…幸せとは程遠いのだ。
「美味しいね、スネーク」
 オタコンの笑顔に目を細め、…仮初めのようなこの暮らしの愛しさを、スネークはまた胸に思うのだった。
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