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↓乙女オタコンです
その女性は美しかった。
凛とした横顔を見詰めるだけだったが、それは青年ハル・エメリッヒの密かな楽しみだった。
シャドー・モセスに娯楽は無い。
武骨な兵士に守られた要塞で、オタコンは仕事とネットサーフィン以外の娯楽を見つけた。……娯楽と言うには、彼女の横顔は厳しく、人を寄せ付けない静謐さがあったが……。
オタコンはあり合わせの部品からスコープを作り、カーテンの陰から彼女を見詰めた。
…彼女の手にはライフル。その表情に漂う気高さと、その殺戮の武器はあまりにもアンバランスな物だったが、オタコンは逆にそれに惹かれた。
目が覚めたオタコンは、頬を冷たく濡らしているのが自分の涙だと気付くのに、しばらく時間がかかった。
床に寝ていた為に、背中が痛くなっていた。
……こんな事は何年振りだろう……。仕事をしながら眠ってしまい、いつの間にか椅子からも落ちて床で眠っていた事が、オタコンには珍しいことでは無かったが……、今は、そんな風に眠ってしまっても、優しい腕がベッドまで運んでくれていた。その優しい腕の持ち主は、一人アラスカに向かっていた。以前、スネークが一人で住んでいたアラスカの家の管理を任せていた男が、次回の契約をしないと言って来たので、新たに家と犬の世話をしてくれる人手を雇う為だ。
そして、彼女の夢も……しばらく振りの事だった。
彼女が死んでしまってからは、初めてだったかも知れない。
……一人になる事が、こんなに怖くて寂しいなんて思ってもみなかった……。オタコンは立ち上がって腕を回してみた。体の下に敷きこんでいた方の腕は痺れて、動かすとぎしぎしと音がしそうだった。
オタコンは群れの一員になった事が無い。
子供の頃から、外で遊ぶ友達はいなかった。チャットで知り合う友達は、興味の対象が変わればオタコンには何の連絡も無しにメアドを変えた。それで構わないと、オタコンも思っていた。メールのやり取りだけの友人は、純粋に趣味での繋がりだけを求めたし、オタコンもそうした相手に身の上話や恋人の話などをされたら、醒めてしまっていた。
ウルフは、彼を群れの中に立ち入らせてはくれたが……、彼女にとっての本当に愛情を注いだ群れの仲間にはなれなかった。
一人でいる事を苦痛に思った事は無い。
あの凍てついた土地で、伝説の傭兵に出会ってしまうまで……、彼は孤独の本当の意味さえ知らなかったと言ってもいいだろう。
「…おなか減った……」
昨夜は何も食べずに眠ってしまっていた為に、流石にオタコンも腹が減っていた。今までは、カロリーが取れればそれで構わないと、チョコレートバーだけで一週間以上過ごした事もある。だが、彼は湯気の立つ温かい食卓に慣れてしまっていた。
寝ぐせだらけの頭を振って、オタコンは立ち上がるとキッチンに向かった。
キッチンに入ると、冷蔵庫に貼られたスネークのメモを見る。それはスネークが出掛ける前に用意したオタコンの祝辞のメモだ。一人きりになると、レーションで食事を済ませかねないオタコンの為に、スネークは簡単に温められる煮込みを作っていた。
冷凍庫からジッパーバッグを出し、それを鍋に空けてガスオーブンの中に入れる。このアパートのキッチンには煉瓦の竈もあるのだが、先住者が置いて行ったガスオーブンもあった。オタコンに竈は使えないだろうからと、これもスネークが出掛ける前に修理をして置いてある。
オタコンは紅茶を淹れる為にペットボトルの水を電気ケトルに入れ、切り分けられてブレッドケースに入っているソーダブレッドも取り出してオーブンに入れた。この手順も、すべてメモに書かれているのだ。
「…スネークは僕をなんだと思ってるんだろ…」
食事が温まるのを待つ為に、オタコンが座ったキッチンの椅子にはブランケットが置いてある。…これもスネークが置いて行ったのだ。
「君はいつから僕のお母さんになったんだろうね」
出掛ける朝も、オタコンが眠っているのを起こす事無くスネークは行ってしまった。
彼の気遣いは嬉しいのだが……、それならば、何故一緒に行こうと言わないのだろう……。
ブランケットに包まったオタコンの肩は、…アルパカでも温まらない冷たさを感じていた。
「……僕だけなのかな……」
スネークと心で繋がる事が出来た…。そう思っていたのは自分だけなのだろうかと……、オタコンは自分の肩をそっと抱いた。
凛とした横顔を見詰めるだけだったが、それは青年ハル・エメリッヒの密かな楽しみだった。
シャドー・モセスに娯楽は無い。
武骨な兵士に守られた要塞で、オタコンは仕事とネットサーフィン以外の娯楽を見つけた。……娯楽と言うには、彼女の横顔は厳しく、人を寄せ付けない静謐さがあったが……。
オタコンはあり合わせの部品からスコープを作り、カーテンの陰から彼女を見詰めた。
…彼女の手にはライフル。その表情に漂う気高さと、その殺戮の武器はあまりにもアンバランスな物だったが、オタコンは逆にそれに惹かれた。
目が覚めたオタコンは、頬を冷たく濡らしているのが自分の涙だと気付くのに、しばらく時間がかかった。
床に寝ていた為に、背中が痛くなっていた。
……こんな事は何年振りだろう……。仕事をしながら眠ってしまい、いつの間にか椅子からも落ちて床で眠っていた事が、オタコンには珍しいことでは無かったが……、今は、そんな風に眠ってしまっても、優しい腕がベッドまで運んでくれていた。その優しい腕の持ち主は、一人アラスカに向かっていた。以前、スネークが一人で住んでいたアラスカの家の管理を任せていた男が、次回の契約をしないと言って来たので、新たに家と犬の世話をしてくれる人手を雇う為だ。
そして、彼女の夢も……しばらく振りの事だった。
彼女が死んでしまってからは、初めてだったかも知れない。
……一人になる事が、こんなに怖くて寂しいなんて思ってもみなかった……。オタコンは立ち上がって腕を回してみた。体の下に敷きこんでいた方の腕は痺れて、動かすとぎしぎしと音がしそうだった。
オタコンは群れの一員になった事が無い。
子供の頃から、外で遊ぶ友達はいなかった。チャットで知り合う友達は、興味の対象が変わればオタコンには何の連絡も無しにメアドを変えた。それで構わないと、オタコンも思っていた。メールのやり取りだけの友人は、純粋に趣味での繋がりだけを求めたし、オタコンもそうした相手に身の上話や恋人の話などをされたら、醒めてしまっていた。
ウルフは、彼を群れの中に立ち入らせてはくれたが……、彼女にとっての本当に愛情を注いだ群れの仲間にはなれなかった。
一人でいる事を苦痛に思った事は無い。
あの凍てついた土地で、伝説の傭兵に出会ってしまうまで……、彼は孤独の本当の意味さえ知らなかったと言ってもいいだろう。
「…おなか減った……」
昨夜は何も食べずに眠ってしまっていた為に、流石にオタコンも腹が減っていた。今までは、カロリーが取れればそれで構わないと、チョコレートバーだけで一週間以上過ごした事もある。だが、彼は湯気の立つ温かい食卓に慣れてしまっていた。
寝ぐせだらけの頭を振って、オタコンは立ち上がるとキッチンに向かった。
キッチンに入ると、冷蔵庫に貼られたスネークのメモを見る。それはスネークが出掛ける前に用意したオタコンの祝辞のメモだ。一人きりになると、レーションで食事を済ませかねないオタコンの為に、スネークは簡単に温められる煮込みを作っていた。
冷凍庫からジッパーバッグを出し、それを鍋に空けてガスオーブンの中に入れる。このアパートのキッチンには煉瓦の竈もあるのだが、先住者が置いて行ったガスオーブンもあった。オタコンに竈は使えないだろうからと、これもスネークが出掛ける前に修理をして置いてある。
オタコンは紅茶を淹れる為にペットボトルの水を電気ケトルに入れ、切り分けられてブレッドケースに入っているソーダブレッドも取り出してオーブンに入れた。この手順も、すべてメモに書かれているのだ。
「…スネークは僕をなんだと思ってるんだろ…」
食事が温まるのを待つ為に、オタコンが座ったキッチンの椅子にはブランケットが置いてある。…これもスネークが置いて行ったのだ。
「君はいつから僕のお母さんになったんだろうね」
出掛ける朝も、オタコンが眠っているのを起こす事無くスネークは行ってしまった。
彼の気遣いは嬉しいのだが……、それならば、何故一緒に行こうと言わないのだろう……。
ブランケットに包まったオタコンの肩は、…アルパカでも温まらない冷たさを感じていた。
「……僕だけなのかな……」
スネークと心で繋がる事が出来た…。そう思っていたのは自分だけなのだろうかと……、オタコンは自分の肩をそっと抱いた。
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