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拍手下さった方、ありがとうございますv


↓不精髭スネーク

 腕の中で目が覚めた…。強張った筋肉の束に頭を乗せ、オタコンはぼんやりとした視界の中にスネークの寝顔を見た。いつの間にか、どこかに飛ばしてしまったのか…眼鏡も見当たらず、オタコンは乱れた服装のままでスネークの腕の中にいた。…いつもは、途中でオタコンが気を失うように眠りこんでしまい、気がつくと何事も無かったかの様にベッドの中にいる事がほとんどだった。遊んだ後の玩具をきちんと片付けるようなスネークのその態度が、オタコンにはどこか寂しかったのだ。
「……」
 スネークの寝顔を見るオタコンの眼が細められた。勿論、寝顔を見る事は初めてだった。いつでもスネークはオタコンに伝説の英雄の顔しか見せてくれていなかったのだ。
 そっと、不精髭の生えたスネークの頬に触れると……、スネークの瞼が僅かに震えた。
「スネーク…、僕、お腹が減ったよ…」
 細く開いたスネークの瞳を見つめ、オタコンはいつもの朝のように言った。
「…オタコン…」
「僕はポップコーンくらいしか作れないんだけど…」
 そのポップコーンも、床に散らばって固くなっていた。
「そうだな…朝っぱらからステーキは入らないが……」
 スネークの掌が、オタコンの額に落ちた髪を掻き上げた。……眼鏡越しでは無い穏やかなオタコンの瞳を、スネークは愛らしいと思った。
「BLTくらいは押し込まないと、動けそうもないな」
 ぼんやりとオタコンの眼に映っていたスネークの顔が近付いて…、オタコンの額に口づけた。
 酷い鬱状態からは脱しているようだった。スネークは戦場に無い時も、ジアゼパムを服用しないと眠れないような事が多かった。オタコンも気をつけるようにしていたが、このところ調べものに時間を費やしていた為に、スネークの薬の量に気付かなかった。
 ……本当は、弱りきったスネークを見たかったのかも知れない……。自分を守ってくれるスネークでは無く、人の庇護を必要とするようなスネークを目の前にして、自分自身の気持ちを確かめたかったのかも知れない…。今までは、スネークの不眠が続くようになると、無理矢理でも仕事を作り外に出すようにオタコンは仕向けていた。幾つかのセーフハウスの荷物を取りに行く事も、ルーティンワークの中では緊張をもたらすものではあった。
「僕が掃除をするから、その間にスネークはご飯を作ってよ」
 オタコンも、ざらりとした髭の感触のスネークの頬にキスした。その仕草に一瞬驚いたように目を見開いたスネークだったが、…夢のような記憶の中のオタコンの言葉を思い出し、薄い肩を引き寄せて抱き締めた。
 朦朧とした意識の中だったが、オタコンの告白はスネークに届いていた。…自分の病状を知るスネークは…、自分からオタコンを縛り付ける事は出来なかった。若い時からある激しい層鬱の発作に加え、…シャドー・モセスの任務中にFOXDIEを植え付けられている。ただでさえクローン体であるスネークは、テロメアの影響で老化も早い可能性がある。時限爆弾付きのポンコツ…、スネークは自嘲するように自分をそんな風に思った事もあった。そんな男なのである。誰の人生にも深く関与する資格など無いと思っていた。
「スネークってば、僕、お腹が減ってるんだよ」
 厚い胸板に抱き締められて、オタコンが笑いを含んだ声で言った。
「ん、そうだな」
 もう一度オタコンの額にキスして、スネークが立ち上がった。Tシャツ越しにもくっきりと分かれた背筋が判る。
 ……こんなにも頼もしい背中なのに……。何もかも預けてしまいたくなるようなスネークの背中だが、…それはガラスで出来たオブジェのように果敢ない物なのだ。オタコンは鼻の奥が痛くなって来るのを感じて、眼鏡を捜す振りをして俯いた。
 何気ないような日常の一つ一つが、二人には大事なものだった。安定を求める事も出来ず…、巨大な渦の中をただ流される。自分たちが決めたと思っている事でさえ、本当のところ、それが自分たちの判断なのか、…誰かにそう操られているのか判らない。そんな不安の中でも、生きている限り、前に進む事は止めないと決めた二人だった。
 現実と虚構の区別の無い世界……。オタコンの身を置いた場所も、スネークの生まれ落ちた場所も、そんな世界なのだ。
 ラグの上から眼鏡を拾い上げたオタコンが立ち上がって、掃除機の入ったクローゼットを開けた。
 ……ドアを開けるのは…、いつでも怖い事だ。自分の開けたドアの先に何があるのか……、自分のいる場所のドアを開けるのが誰なのか…。
 だが、オタコンはドアを開ける事を躊躇うのを止めた。

 ……だって、僕たちは出会う事が出来たから……。

 スネークがオタコンのドアを開けた。
 ウルフの事を引き摺りながら、一歩も動く事の出来なかったオタコンに、出来る事はあるのだと教えてくれた…。
「…僕だって、…何か出来るよね…」
 クローゼットから掃除機を取り出したオタコンの顔に、迷いはなかった。
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