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拍手下さった方、ありがとうございますv


↓今回料理を作るのはオタコンです

 ピンセットで最後のシールを貼って、オタコンは満足そうににんまりと笑った。パーツを一つ一つやすりで磨いて、組み立てからパテ埋め、塗装してからシールを貼ると一気にそれは本来の形になるのだ。空洞のパーツを切り離して組み立てるまでは、それはただのプラスティックなのだが、仕上がった姿はオタコンを夢中にさせた二足歩行ロボットになる。オタコンのパソコンの周りに置いてあるロボットのフィギュア達。これらはすべて、悪を倒し人々を助ける正義のロボットだ。……だが、実際にオタコンが開発に関わったメタルギアは、オタコンの夢のロボットでは無かった。
 眼鏡を外して、鼻梁を揉んだオタコンは、出来あがったばかりのフィギュアをディスプレイの上に飾った。暫くぶりに作ったフィギュア、接着剤や塗料の匂いがオタコンを懐かしい時間に連れ戻していた。父と、義母と義妹……、内向的で引きこもりがちだったハル・エメリッヒの青春の日々と言ったところだろうか……、オタコンの頬に、さっきとはまるで違う自嘲するような笑みが浮かんだ。
 ……知らないと言うだけで罪になる……。そんな事さえ気づかなかった日々。無邪気な興味だけが、自分自身を突き動かしていた時代は、オタコンに苦い物を思い出させた。自らに命を絶った父、その死はいつもオタコンにとって傷となって残っている……。父の義母への愛情と絶望…、それは知らなかったで済ませる事は出来なかった。
 シャドーモセスでも、オタコンはメタルギアを移動可能なミサイル迎撃システムと思い込んで開発チームにいたのだ。スネークに出会わなければ、大量殺戮兵器を知らずに作りだしていた。……知らない事で済ませ、許される事では無い。知らない事が罪になる……。オタコンはスネークに出会ってそれを知った。彼の生い立ちは謎に包まれていた。彼は自分の出自のほとんどを知らない……。判っていた事は、自分がビッグボスのクローンであると言う事……。恐るべき子供たち計画の遺産であると言う事以外、スネークは自分の母親がどんな人種でどんな人物であったかも知らない。新たなる伝説の種ととして、この世に生を受けたスネーク。個でありながら、個では無い…。
「……スネーク……知らない事は罪になるんだよね……」
 常に戦火の下にいたスネーク。アウターヘブンでは、遺伝子上の父を殺した男。
 スネークの中にある暗い穴を、オタコンは直視する事が出来ない。あまりにも深いその穴は、覗き込んだだけで底までも墜ちてしまいそうで……、オタコンは彼の傷に触れることを避けていた。
 一緒に暮らす事になった時も、お互いの事に過干渉にならないようにしようと言うのは初めからあった約束だった。一人きりになりたい時も邪魔はしない……、それはオタコンが自分自身を守るための約束だと言って良かった。スネークの精神はやはり非常に不安定で、戦闘下にあれば明晰であるはずの頭脳も、平穏な日常には酷く不向きな回路で出来上がっていた。…彼は生まれながらの戦士。戦場の亡霊のように語り継がれる英雄となるべく生み出されたのだ。人間としての幸せを求める事は、初めから彼の中には存在しなかった。
 本能が、彼を戦場に呼び寄せる。……そこでしか生きている事を実感できないのだ。
 ディスプレイに載せたフィギュアをもう一度見て、オタコンが立ち上がった。
 自分の部屋を出てキッチンに入る。たった二日使われなかっただけで、キッチンは寒々とした空気に満ちていた。
 オタコンは重たいダッヂオーブンをガスレンジにかけると、戸棚の中にある缶から乾燥したトウモロコシを取り出した。ゆっくりと温まるダッヂオーブンにバターを落とし、トウモロコシを入れると蓋を閉めて待った。
 ぴちぴちとバターの中の水分がはじける音がして、バターの焦げる香ばしい香りがキッチンに広がった。
 オタコンは慎重にガスの炎を調節して、トウモロコシが焦げないようにした。
 分厚いダッヂオーブンの中で、ポンと小さく爆ぜる音がする。ポンポンと軽やかな音が幾つかしてから、オタコンはサラダ用の木のボウルを取り出した。
 ガスを止め、ダッヂオーブンの中からトウモロコシの爆ぜる音がしなくなってから蓋を開けた。
 真っ白い湯気が、柔らかいバターとトウモロコシの甘い香りと一緒に上がった。キッチンの中に広がって行くその匂いに、オタコンは少しほっとするものを覚えた。
 温かい香りに包まれて、オタコンは少し鼻の奥が痛くなった。シャドーモセスを脱出してから、今までの間……、スネークは常にオタコンの為にキッチンを温かい匂いで満たしてくれていた。
 長い単調な日々が、スネークを蝕む。酷い鬱状態になったスネークは、一日中自分の寝室にこもっていた。
 オタコンは出来たてのポップコーンをボウルに移して、スネークの寝室のドアをノックした。
「スネーク、ポップコーンを食べないかい?出来たてだよ」
 もう一度ノックしてから、ドアのノブを回すと、鍵はかかっていなかった。
「スネーク…」
 スネークはベッドに腰かけて、膝の間に埋まり込むほど項垂れていた。オタコンはその隣に座って、スネークの前にポップコーンの入ったボウルを差し出した。
「ねぇ、スネーク。すごい?僕一人で作ったんだよ?」
 バターの香ばしい香りに、スネークが僅かに顔を上げた。
「オタコン……」
 まるで、気難しい野良犬のような目だと思った……。スネークのどんよりとした目を見つめ、オタコンはポップコーンを一つ摘まんで差し出した。
「まだ、温かいよ」
 そっとスネークの唇にポップコーンを押し当てると、何か言いたそうな唇が僅かに開いた。
「ねぇ…スネーク…。僕、君の事が好きだよ」
 有耶無耶にしてしまおうとしていた気持ちだった。スネークが遊びで自分を抱いたのでは無い事は、オタコンには直ぐに判った。答えを出したがらない…否、答えを出せないオタコンの気持ちを察して……、スネークはいつもオタコンに逃げ道をくれた。寂しさを埋め合わせるのに、人肌は丁度いい……、それだけでスネークが自分を抱いていたのでは無い事は、…オタコンは知っていたのだ。知っていながら、気付かない振りをする事は…、知らない事よりも質が悪い。
「…僕…、君の恋人になりたい……」
 …自分の気持ちさえ、知らない事にしようとしていた。
 黙ったままでいるスネークの肩を、オタコンは抱きしめた。埋め合わせるのは、…寂しさだけでは無かった。
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