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↓本格的にSnake kitcenと別ルートになってきた気がします。

 スネークも耐えきれなくなりそうだった。
 白人にしても色の白いオタコンの項は、ピンク色に染まっていて、側に寄せた体からはボディソープの匂いに交じったオタコンの体臭がほのかにしていた。
 オタコンの作っていた物に興味を惹かれて、不用意に近づいてしまったが、……思わず抱きしめてしまいたくなった。
 骨ばった小さな背中からは、オタコンの鼓動が伝わってきた…。急激に速くなったその鼓動に、スネークは申し訳ないような気がしていた。オタコンはクウェリの事でまだ自分に対して負い目がある……、そう思うと、小さな背中が可哀そうになった。そして、それ以上にスネークの気持ちに気づいて怖がっているのではないか……、そんな風に思う自分の臆病が嫌だった。
 小さな花を折っているオタコンの姿に未練を残しながら、スネークは工具箱を持って庭に出た。
 工具は手入れの必要などは無かった……。オタコンがリビングで何かをしていたので、そこにいたかっただけだった。ただ一緒にいたいなどと言った感情は、スネーク自身にも不慣れで不思議なものだった。
 ……まるでティーンエイジャーだな……。スネークは小さく笑った。
 ささくれた気持ちを埋めるように、何かのスポーツのように、スネークはセックスをそんな風にとらえていた。愛情を確かめ合う手段と言うよりは、埋める事の出来ない自分の何かを紛らわせるものだった。
 柔らかくていい香りのする女性を抱きしめる時に感じるものと、オタコンの頼りない肩を抱く時では……、まるで違う気持なのだ。一時の楽しみを求めるだけの行為ではなく、腕の中に抱きしめて守ってやりたい……、そんな事を思った事は今までに無かった。
 スネークは納屋に行くとオイルステインを取りだした。
 ここが終わったら、母屋の屋根も調べよう……、スネークは丁寧にオイルステインを塗りながら思っていた。オタコンとは一緒にいたかった……、だが、一緒にいる事でオタコンに窮屈な思いをさせているのではないかという思いもある。そして、一緒にいれば……スネークはオタコンに触れたくなってしまうのだ。
 こんなジレンマは初めてかもしれない。スネークにとって、他人は自分の側を通り抜けるだけのもの、係り合いを持てば、それは生死を分けるよな事なのだ……。他人と甘い関係を築く事など、スネークは初めから諦めてしまっていたのだ。
 ……俺は人を好きになる事なんか…出来ないのかも知れない……。どこかで他人を突き離していたかもしれない。
 スネークは戦場なしに生きられない男だった。
 ハードボイルドを気取っているわけではない。文字通り、スネークは戦場に立つために作られた男なのだ。伝説の傭兵となるべく生まれ堕ちた男。そんな生き方に、パートナーを求める事は土台無理な話だった。
 だが、スネークは選んでしまったのだ。シャドーモセスを出て、オタコンを安全な場所に送り届ける事だって出来たはずを……、ここに連れてきてしまった。自分がオタコンに恋を覚えているとは、その頃のスネークには認める事は出来なかったが、彼を連れてきたという事は、自然に彼の存在を求めていたということだ。
 一緒に暮らし始めると、オタコンは思った以上に生活能力が低かった。研究に没頭して、日常生活は蔑にしてきた事は容易に想像できたが、オタコンはスネークの想像をはるかに上回っていた。
 そんなところも、スネークには可愛かったのだ。スネークが料理をするたびに、まるで魔法使いでも見るような目つきで見られるのも、詰まったトイレを流しただけで英雄のように褒め称えられるのも、スネークをくすぐったいような気持ちにさせた。
 ……ずっとそばにいて欲しかった。
「スネーク」
 壁塗りに没頭していたスネークを、オタコンが呼んだ。いつの間に来たのか、分厚いグランドコートを羽織ったオタコンが、スネークの後ろに立っていた。スネークが雪掻きをする時に着るコートは、オタコンには大きすぎて、肩が落ちてしまう分袖を捲り上げていた。ボアの裏地の中から覗いた手首は、オタコンを幼く見せていた。
「これを…クウェリに」
 オタコンの差し出した掌に、たくさんの白い花があった。
「…ありがとう、オタコン」
 スネークはオイルステインの刷毛を置くと、オタコンの先に立ってクウェリを埋めた木の下に案内した。
「彼女…僕が初めて来た時に、優しくしてくれたんだよ」
「ああ、クウェリは立派なお袋さんだったからな。お前さんも新しい子犬だと思ったんだろう」
 スネークがからかうように言ったが、オタコンはそれに頷いた。
「うん。たぶん、そう思ったんだろうね。僕の手を毛繕いするみたいに舐めてくれた…」
 大きな樅の木の下に、クウェリは眠っていた。すぐ近くの犬舎の中から見ていた犬たちが、小さく鼻を鳴らした。
「あの子だ…あの茶色いハスキー…」
「プカックか?」
 犬舎の格子に体を擦りつけている薄い茶色の背中をしたハスキーを、スネークは指差した。
「うん。プカックって言うんだ……プカックがね、僕の足におしっこしちゃって、すごくびっくりしてたら、クウェリが……」
「…オタコン」
 クウェリの眠る場所に、オタコンは小さな花を撒いた。
「それなのに…僕は彼女に何もしてあげられなくて……」
 オタコンの声が詰まった。こんな風に泣く事は、一体いつ以来なのだろう……、オタコンは子供の時にも、内向的で自分の世界に閉じこもるようなところが多かった為に、泣いて親に要求を通すような事もした事が無かった…。こんなに無防備に泣いてしまったのは、初めてかもしれなかった。
「オタコン…」
 スネークの腕がオタコンを引き寄せた。
 胸に抱えたオタコンの涙が、スネークのシャツに温かく染みた。スネークのグランドコートは大きくて、抱きしめたオタコンの体は余計に頼りなく感じた。 
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