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拍手下さった方、ありがとうございますv



↓乙女っぽいオタコンです。大丈夫な方だけ……

 朝になっても、オタコンは一睡も出来ていなかった。自分のしたい事や熱中する事で徹夜をするのには慣れていたが、こんな風に眠れない晩が明けると、体は砂袋のように重かった。
 階下ではスネークが朝食の支度をしているらしく、香ばしいベーコンの脂の匂いがオタコンの部屋まで流れ込んで来ていた。
 ……犬達は静かだった。ベーコンの焦げる匂いなどしていたら、犬達は大騒ぎになっていたのだが……、今朝はどの犬も静かだった。
「………」
 オタコンはサイドテーブルから眼鏡を取り上げた。
 ……気付いたって、僕には何も出来なかった………。獣医を呼んだとしても、ここまで来るのは間に合わなかっただろう。何が出来たと言うのだろうか……、オタコンは昨日の服のまま、着替えもせずにぼんやりとベッドに腰かけていた。
 ……クウェリの事は知っていた……。オタコンがここに来た時に、彼女は一番にオタコンの手を舐めたのだ。スネーク以外の人間、知らない匂いに興奮する若い犬達を脇にどかせて、彼女はオタコンの足元に綺麗に座った。橇犬としての筋肉は落ちていたが、その分クウェリはエレガントだった。そっとオタコンの手に頭を寄せて、暖かい舌でオタコンの凍てついたように冷えていた指先を舐めたのだ。
 ……優しい子だったな………。犬達の騒ぎが、クウェリの異変を知らせる物だと気付いていたら……、彼女を暖炉のそばに運ぶことくらいは出来た筈だった。冷たい雪の上で、最期を迎えずにすんだかも知れない……。
 ……僕はいつだって間に合わない……。仕舞った場所があまりにも記憶の奥底で、オタコンにはいつもはっきりと思い出せない父の顔が、…自分に妹をくれたはずの人の顔が、裏切ったままで放り出してしまった妹が、……そして、雪の上に眠るように横たわった美しい横顔が、走馬灯のようにオタコンの脳裏に浮かんだ。
 ……僕は誰かに災いを運ぶために生きてるのかな………。自分に関わった人で、…オタコンが心を許した人で、現在も幸せに暮らしている人を、思い浮かべる事は出来なかった。
「……スネーク……」
 凍てついた思い出の中で、死んでしまいそうになっていたオタコンに、スネークは新しい人生をくれた。取り返しのつかない研究、取り返しのつかない事件……、それらを償って、誰かの幸せの為になるような……。
 スネークはオタコンに使命をくれたのだ。
 固いメープル材のサイドテーブルに置いたオタコンの手が、小さく震えていた。爪が当たるカタカタと言う音に、オタコンは慌てて自分の手を胸元に引き寄せた。
 震える指先を抱いて、オタコンは目の前が真っ暗になるような思いがしていた。
 スネークがいなかったら、自分はどうなっていたのだろう……。シャドーモセスを脱出する事さえ、出来なかったかも知れない……。ロッカーの中に隠れて、一人震えているしか出来なかったかも知れないのだ。戦闘に決して向いていると思えない自分は、ただじっとしていれば、誰かが助けに来るのだと………。
 ……誰かって…誰なんだろう………。ウルフがそうした甘い関係を、オタコンに許すとは思え無かった。オタコンが自分の意志で犬の所に来たいのならば、それは自由ではあったが、餌をやりに来ないオタコンを心配してウルフが訪ねてくるような事は、絶対に無かったはずだ。
 ウルフでは無いのならば、それは…FOXHOUNDの誰か、それとも……さらにオタコンを利用して兵器を製造させたがる誰か………。
「……!…」
 オタコンがドアを振り返った。階段を上がる音に続いて、ドアが小さくノックされた。
「オタコン、いつまで寝てる気だ?飯の時間だぞ」
 スネークは部屋にこもっている事の多いオタコンを、必ず食事の席につかせた。今日も、いつもと変わりないように呼びに来たのだが、オタコンは返事をする事が出来なかった。
「オタコン?寝てるのか?」
 さっきよりも大きなノックの音がして、ドアが開いた。
「…何だ?起きてるなら」
「スネ……ク……」
 おかしいほど震える手を抱きしめて、オタコンがスネークを見た。
「僕…僕に何か言う事が…僕を……僕…僕」
 スネークがベッドに近付くと、オタコンはがたがた震えながらベッドの上を後ずさった。
「おい、大丈夫か?顔が真っ青だぞ」
「僕の事、怒ればいいじゃないか!」
 スネークの差し出した手を、オタコンは跳ねのけて叫んだ。
「犬が騒いでたのも知ってた!クウェリの様子を見てくれって、見てくれって!」
 叫んでいたオタコンの呼吸が、浅く、速くなった。
 ……何…苦しい…息が……。オタコンは次の言葉を叫ぼうとして息を吸い込んだが、あまりの息苦しさに言葉は出なかった。酷い目眩が起こって、眼鏡を投げ出したくなった。
「オタコン!」
 スネークの声は聞こえるが、オタコンは耳鳴りも酷く感じた。足の裏がぎゅう、と縮こまって爪先が踵につきそうな感覚もあった。
 息苦しく、何度も息を吸い込むのに、息を吸えば吸うほどオタコンは苦しくなった。
 身体を丸めて激しく息を吸い込んでいるオタコンの体を、スネークはベッドに押さえつけた。
「オタコン、息を吐け」
 チアノーゼを起こしているのか、顔色の変ったオタコンをベッドに縫いとめるように押さえつけ、頬を軽く叩いたが、オタコンは引き攣ったように痙攣し始めた。
「!」
 背中を反らせて引き攣っていたオタコンの顔の上に、スネークの顔が近付いた。
 驚いて、息を吸うのをやめたオタコンは、スネークに唇を塞がれた。
「…んっ!」
 顎を掴んだスネークの手が、オタコンの口を開けさせた。
「ふうっ」
 スネークがオタコンに息を吹き込んだ。
 ……ああ…過換気症候群だ………。スネークに呼気を吹きこまれて、オタコンも少し冷静になった。頭の隅の方で、自分を突き放したように見詰める自分がいるのを感じる。
 ……足手纏いの僕………。スネークが吹き込んだ息の中に、モスレムの匂いが混じっていた。いやでも唇が触れあっている事を意識させる匂いだった。
「ゆっくり、息を吐いてみろ」
「……」
 スネークの腕に抱かれた自分の体が、物凄く貧弱なものに思えて、オタコンは居心地が悪そうに身じろいだ。
「大丈夫か…?」
 深い森の色が、心配そうにオタコンを見詰めていた。
「……うん……」
 骨ばって、筋肉の欠片も無い自分の体が、今更ながらにオタコンは恥ずかしくなった。…しかも、自分に覆いかぶさるスネークの体に、安心感を覚えているのだ……。
「…大丈夫……」
「マイナートランキライザーは何か持ってるか?」
 尋ねられてオタコンが首を振ると、スネークの体温はオタコンを離れた。
「ジアゼパムがあったはずだ。待ってろ」
 額に落ちた髪を撫でられ、オタコンは黙って頷いた。スネークも、そのオタコンの目を覗き込んで頷いた。
 足早に部屋を出て行くスネークの背中を、オタコンはベッドに横になったまま目で追って行った……。自分とは似ても似つかない背中……、それに覚える感情は、同性としての嫉妬では無い……。それに気付いたオタコンは、自分自身の考えに打ちのめされた。
 ……僕は何を………。
 俄かに信じ難い事態だった。それこそ、スネークがオタコンに言ったストックホルム症候群と同じ事だ……。そう言い聞かせようとするのだが、過換気症候群の発作では無く、オタコンの鼓動は早くなった。
 ……そんな事…信じられない………。
 オタコンは、図らずも自分の気持ちに気付いてしまった。
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