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拍手下さった方、ありがとうございますv



↓ほのぼのバレンタインです

 スネークは冷ましたスポンジを丁寧に7枚にスライスした。細い木の棒を重ねて行って、一層ずつ奇麗に削ぎ取るように切るのは慎重を期す作業だったが、スネークはこうした神経を集中するような作業が好きだった。
 7枚のスポンジの内の一枚は、今鍋で出来上がったばかりのカラメルをかける。カラメルを均等に伸ばしたら、バターを塗ったナイフで12等分に切り分けてカラメルが固まるまでは窓のそばに置いておく。
 残りの6枚のスポンジにはジャムを溶かしたシロップを塗って、チョコレートクリームを挟んで重ねて行く。
 ケーキの本体をナッペし終わったところで、スネークはモスレムに火をつけた。
 カラメルを塗ったスポンジ越しに、鳩の番が見える。
 オーブンを使っていたキッチンは暖かかったが、鳩のいる隣の窓は随分と寒い事だろう。窓の廂の影に、細かい枝を集めた巣をかけてあるのだが、その中にいる2羽の鳩は丸く膨れ身を寄せ合っている。
 紫煙に細めたスネークの目に、膨らんだ鳩の胸の羽が風を孕んで膨れているのが見えた。
 身を寄せ合えば、この寒さも愛しいか……。スネークの胸に、僅かな感傷が浮かんだ。
 丸く身を寄せ合う鳩のように、自分とハル・エメリッヒはこの隠れ家の中にいる。スネークは灰皿を引き寄せて、先折れタバコを揉み消した。
 仮初めの住まいでも、スネークはここでの暮らしを楽しんでいた。鳩のように生涯の伴侶と言う訳にはいかないかもしれなかったが、スネークはオタコンとの暮らしも愛しいと思っていた。
 偏食家で、意外にも強情で頑固な相棒の為に献立を練るのも楽しい事だった。
「スネーク、メイ・リンからカードが来てるよ」
 スネークがカラメルの乾いた飾り用のスポンジをケーキの上に並べていると、オタコンが郵便物を持ってキッチンに入って来た。
「うわぁ。美味しそうだね~」
 ドボシュトルテを目にして、オタコンが嬉しそうな声を上げた。
「もう、出来あがる。トカイを開けようと思ってたんだ。グラスを持って行ってくれるか?」
「うん」
 普段使っている水用のグラスでは無く、オタコンは脚の長いグラスを取り出した。
 リビングのローテーブルの上に、グラスとケーキを取り分ける皿を並べ、その側にメイ・リンからのバレンタインカードを置いた。ピンク色の大振りな封筒の中から、何枚かのハート形のカードを取り出す。
「これはスネークだね」
 大きなハートのカードに『禁煙』と『千里の道も一里から』と書かれている物はスネーク宛にだろう。アイストレッチの方法が図解で書かれているのはオタコン宛、その他にも日頃の生活の注意や有難い格言の書かれたハート形のカードは、糸で繋がれてオーナメントのようになっていた。
「メイ・リンは世話女房タイプだな」
 ケーキを持って来たスネークも、オタコンの隣に腰かけてカードを見ながら言った。
「女房って言うよりお母さんみたいだ」
 一枚一枚のカードを見ながらオタコンが笑った。
「こんな年を食った息子じゃ、可哀想だろう」
 スネークもメイ・リンの心遣いに目を細めた。
 アラスカにあるスネークの住所から幾つものセイフハウスを経由する事を考えて、カードの消印は1月の初めごろになっていた。返事もお返しのカードも一度も返した事は無かったが、メイ・リンからはクリスマスカードも来ていた。メイ・リンは社交的で友人も多くあるのだろうが、二人の事もいつも忘れてはいなかった。
「いい子だな」
「うん」
 慈しむようにカードを並べて、オタコンはスネークの肩に身を寄せた。
「僕、スネークにカードを書くのを忘れてた…」
 ドボシュトルテを切り分けるスネークの手元を見ながら、オタコンは少しすまなそうな声を出した。普段から甘い物の好きなオタコンにスネークは色々なお菓子を作ってくれたが、今日のこの手の込んだケーキはバレンタインのプレゼントなんだと、オタコンも気付いたのだ。
「俺はティタイムの後に、お前さんからプレゼントを貰うつもりだけどな」
「え?だって、僕何も用意してないよ」
 こうした隠遁生活に入る前から、オタコンは年中行事とは無縁に生きて来た。それは研究者となる前からで、学生の頃からあまり興味も無かったのだ。去年のクリスマスにも、スネークはブッシュ・ド・ノエルを作ってくれた。結局、そのブッシュ・ド・ノエルを食べる事は出来なかったのだが、オタコンの為に用意してくれた事は確かなのだ。
「用意して無くて、いいのさ」
 トカイの栓を抜いて、スネークがグラスにコハク色の甘い香りを注いだ。
「プレゼントはラッピングを剥がすのも楽しみだからな」
 今日もきっちりとシャツのボタンを一番上まで閉めているオタコンの襟を摘まんで、スネークがそう言うとオタコンの頬が赤くなった。
 こんな風に言われるのは、オタコンには気恥ずかしい事なのだが、耳に響くスネークの声は心地よかった。
「いいよ……、全部スネークにあげるからね」
 ……こんな僕でいいならね。照れ隠しなのか、そんな事を云うオタコンを、やはりスネークは可愛らしく思ってしまうのだった。
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