噛む（スネ雷パラレル）

拍手下さった方、ありがとうございます！


↓イチャイチャする二人です

　ジャックは唇を撫でるスネークの指を軽く噛んだ。
　ここに来てから、毎日のように大工仕事に精を出すスネークの指先は、カチカチに硬くなってひび割れていた。
　ひび割れに沿って、舌を這わせるとジャックはスネークの指を咥えて、犬が甘噛みをするように噛んだ。
　スネークはジャックのしたいようにさせながら、テーブルに置いた雑誌のページを捲った。
　暖炉の前のカウチの上に寝転んだスネークの腹の上には、ジャックが座っていた。
　幾ら暖炉が赤々と燃えていても、薄いシャツ一枚のジャックは随分と寒そうだ。雑誌を離したスネークがジャックの肩を引き寄せると、ジャックはそのままスネークの胸に収まった。
「俺の指は旨いか？」
　まだ指を咥えたままでいるジャックに尋ねると、濃い金色の睫毛が頷くように伏せられた。
　正直な話、スネークはジャックの変化に驚かされた。
　島にいた頃とは別人のように、ジャックはスネークの後をついてばかりいた。
　スネークがキッチンに入れば、ダイニングテーブルに腰掛けて夕食の支度をずっと見ている。新しい工具を取り寄せようかとカタログを見ている今のような時は、寝そべったスネークに跨るように一緒にカウチにいる。犬の様子を見る時も、ジャックは一緒に犬舎に行った。
　まるで親鳥の後をついて歩くひよこだ。
　……ひよこと言うよりは……白鳥か………。
　色の薄いブロンドの髪に顔を埋めて、スネークはくすりと笑った。
「…？」
　スネークの笑った気配に、ジャックがやっと指を離した。
「お前さんは犬みたいだな。プカックによく似てる」
　ハスキー犬に似ていると言われたが、ジャックはそれが家族だと言われたようで嬉しかった。
　何もかもが変わった。
　ジャックの中で、全ての価値観が一変してしまった。
　ジャックの手は、人を傷つけるのではなく愛しい人に触れる為の物になった。
　ジャックの腕は、誰かを縊り殺す為の道具では無く恋しい人を抱き締める為の物になった。
　ジャックの唇は、誰かを呪う言葉を吐くのでは無く愛する人の名を呼ぶための物になった。
　あの時凍りついてしまったジャックの心が、やっと動き出した。
　ジャックは決して頭が悪いわけでは無かったが、あまりの極限状態に身を置いていた為に精神的な成長に問題があった。ジャックは引き算だけで暮らしてきたような物なのだ。自分の命を守るには、誰かの命を引かなければならない。誰かの命令に従うならば、それとは反する人達を引かなければならない。ソリダスの篩の目を零れないように、ジャックは人としての心を少しずつ引き算で捨てて来たのだ。
「嬉しそうな顔するなよ。…こんな美人の犬がいるわけないだろ？」
　スネークの手が、言葉とは裏腹に犬達にするようにジャックの髪を撫でた。くしゃくしゃと掻きまわして、頭の天辺にキスをする。ジャックの髪からは、暖炉の薪の匂いがした。たぶん、自分も同じ匂いがしているのだろう……、そう思うと、スネークの目尻に笑い皺が浮かんだ。
　ジャックは犬達がするように、スネークの手を取ると柔らかく噛んだ。
　キスでは柔らかすぎて、ジャックのスネークへの思いとは違うような気がするのだ。一歩間違えば、噛み切ってしまうほどの力では無い。だが、確実にスネークに触れていると実感できる……。
　ジャックはスネークの手を放すと、唇にキスをした。
　煙草の匂い。
　スネークの舌が、ジャックの唇を舐めた。ジャックは目を閉じたまま、柔らかい舌を絡めあった。
　無防備な柔らかい肉塊、可視部分の人体の中でこれほど柔らかい場所は他にないだろう……。キスが心地よいのは、自分も相手も無防備にお互い弱い部分を曝け出す為なのだろうか……。
「いた……おい、噛むなって言っただろ？」
　そっと噛んだつもりだったが、先ほどまで硬い指先を噛んでいた為に、ジャックは力の加減が出来なかった。
　血が出るほどではないが、痛かったと言うスネークに、ジャックはまた唇を近付けた。
「…スネーク……」
　強請るように名前を呼ぶジャックを、スネークはカウチの上に押し倒した。
「悪戯坊主には、お仕置きが必要だな」
　スネークはにやりと笑うと、ジャックの耳に噛みついた。
　それこそ、痛いと言うよりはくすぐったいような刺激に、ジャックがくすくすと笑うと、スネークも笑いながらジャックの耳を何度も噛んだ。
　暖炉の中の薪は、まだ２時間以上は燃えているだろう。スネークは耳を噛みながら、ジャックのシャツに手を滑り込ませた。